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浦和地方裁判所 平成9年(行ウ)6号 判決

原告

日達茂夫

右訴訟代理入弁護士

奈良輝久

和田希志子

被告

浦和市建築主事 茂木詔男

右訴訟代理人弁護士

新井修市

右訴訟復代理人弁護士

横山豪

事実及び理由

第三 争点に対する判断

一  争点1について

1  本件計画敷地及び本件通路の利用状況の経緯等についてみると、前記前提となる事実のほか、〔証拠略〕によれば、次の事実が認められる。

(一)  本件計画敷地の位置関係は、別紙図面(一)、(二)のとおりであって、本件計画敷地は、本件通路によってのみ公道に通じる袋路である。本件計画敷地及び本件通路を含む周辺の土地は、森田兼吉が元所有していた。

本件通路は、浦和市に所在する幅員約二・六メートルの道であるから、昭和二六年七月三一日、埼玉県知事によってされた本件告示記載の要件を満たしている。

(二)  本件計画敷地は、昭和二八年一〇月、森田兼吉から佐藤かねに譲渡され、次いで、佐藤かねから後藤へ譲渡された後、後藤が昭和四七年右土地上に現建物を建築した。

原告は、昭和四九年二月二〇日、後藤から、本件計画敷地及び現建物とともに、本件通路の持分二分の一を買った。なお、本件通路の残りの持分二分の一は、小林カネが所有している。

(三)  本件計画敷地及び本件通路に隣接する土地の利用状況等は、次のとおりである。

(1) 本件通路の北側に接する浦和市太田窪二丁目八〇九番一、同八〇九番一一、同八〇九番一二、同八一〇番五、同八一〇番七、同八一〇番一一の各土地は、森田二三が昭和三五年三月二八日売買により取得しており、右土地上には、昭和四三年四月五日、建築された森田公弘名義の建物が建っている。

(2) 本件通路の南東側に接する浦和市太田窪二丁目八一〇番二、同八一〇番六、同八一〇番一三、同八一〇番一四、同八一〇番二の各土地は、昭和二八年一〇月に森田兼吉から針谷ミツエに譲渡され、その後、小林カネが、昭和五九年一〇月一一日に相続により取得しており、右土地上には、昭和三七年ころ、建築された建物が存在している。右建物は、小林カネの所有であり、共同住宅として使用されている。

(3) 本件通路の南西側に接する浦和市太田窪二丁目八一一番一、同八一一番三の各土地は、奥田健治郎が昭和四五年四月三〇日売買により取得しており、右土地上には、昭和五一年八月一五日建築された建物が存在している。なお、右建物を建築した際に作成された建築計画概要書(〔証拠略〕)には、本件通路は二項道路として記載されていない。

(4) 右(1)ないし(3)の土地上には、右各建物が建築される以前に、何らかの建物が存在したことを窺わせる証拠は、見当たらない。

(四)  米軍によって昭和二二年一一月八日に本件計画敷地及び本件通路部分を含む浦和市街地を撮影された航空写真(〔証拠略〕)によれば、本件通路に接する建築物は、一棟も確認できない。

(五)  昭和二六年作成の都市計画図、昭和二九年三月測図の白図、昭和三四年二月測図の白図のいずれにも、本件通路に接する建築物は、記載されていない。

(六)  本件計画敷地上に存する現建物について、高野建築主事は、後藤からの建築確認申請に対し、昭和四七年九月二五日、右申請書及び添附図面に記載の建築物の建築は、当該建築物の敷地、構造及び建築設備に関する法律並びにこれに基づく命令及び条例の規定に適合することを確認したとして、本件建築確認通知書を交付したが、本件建築確認通知書に添付された本件配置図(〔証拠略〕)には当本件通路部分に「四二条二項道路」との書き込みがある。本件配置図は、高野建築設計事務所の建築士高野三男の作成にかかる図面であるが、後藤から申請のあった右建築確認申請に関する審査資料は、すでに廃棄され、高野建築主事は死去している。

(七)  昭和四七年当時、建築確認の審査は、もっぱら申請人の提出した資料のみに基づいて、その適合性が判断され、建築主事等による現地調査は行われていなかった。

(八)  原告は、平成三年七月ころ、現建物の建替えを計画し、建築業者に本件建築確認通知書を交付して、右建替えに関する相談をしたが、右建築業者が浦和市建築指導課と協議したところ、建物の建替えには支障がないとのことであったので、建替えを前提として請負契約を締結し、手付金を支払ったが、その後これを解約した。その後、原告は、現建物が老朽化したため建替えを考えていたところ、建築業者からの勧めもあったことから現建物を建替えることとし、平成七年一月九日、原告は、被告を訪れ、本件申請について事前相談をした。被告は、翌八日、本件計画敷地等につき、現地調査を行ったり、基準時における立ち並びの要件について調査をした結果、本件建築確認通知書には「四二条二項道路」との記載があるが、前記(四)、(五)の事実が確認されたため、本件通路は立ち並びの要件を備えていないので、二項道路として取り扱うことはできないと判断し、その旨を原告に説明するとともに、本件通路を協定道路とするか、本件通路部分の共有者である小林カネと共同で一棟の建物を建築する方法があることを教示した。

以上のとおり認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

2  そこで、以上の事実に基づき、本件通路が、二項道路に該当するか否か検討する。

(一)埼玉県知事は、昭和二六年七月三一日、 「法第四二条第二項の規定により、都市計画法適用の市、町、村の区域内にある幅員が四メートル未満一・八メートル以上の道を指定する。」旨の本件告示を発したが、本件告示は、法第四二条第二項の規定により、右掲記の道を二項道路として指定するというものであるから、本件告示により指定された二項道路であるといえるためには、単に幅員が四メートル未満一・八メートル以上であるというだけでは足りず、法第四二条第二項の定める要件、すなわち、基準時において、現に建築物が立ち並んでいる道であること、幅員が四メートル未満の道であること、特定行政庁によって指定された道であることの三つの要件を全部満たす必要があるというべきである。

この点、原告は、埼玉県知事は、法第四二条第二項の要件について裁量的判断をした上で、本件告示を発したと主張するが、右事実を認めるべき証拠は存しないし、法第四二条の目的・趣旨に照らしても、特定行政庁において、法第四二条第二項所定の立ち並び等の要件について、これを裁量的判断の対象とすることが許されるものと解することはできないので、原告の右主張は、採用することはできない。

したがって、本件通路が、幅員約二・六メートルの道であることをもって直ちに本件告示の要件を満たすとして、二項道路としての指定を受けた道であると認めることはできず、本件告示において二項道路として指定を受けた道というには、立ち並びの要件を具備しなければならないというべきである。

(二)  次に、本件通路が基準時に立ち並びの要件を満たしていたかについて判断する。

前記(一)の二項道路の趣旨に照らして、立ち並びとは、当該道によって公道に接道する複数の建物が、基準時において存在していることをいうものと解するのが相当である。前記認定の事実に照らし、これを本件についてみると、次のとおりである。

(1) 本件計画敷地には、昭和四七年に建物が建てられ、本件通路の北側に接する前記森田所有の各土地上には、昭和四三年四月五日に建物が建てられ、本件通路の南東側に接する前記小林カネ所有土地上には、昭和三七年ころに建物が建てられ、本件通路の南西側に接する前記奥田所有土地上には、昭和五一年八月一五日に建物が建てられていること、しかし、これらの土地上には、右各建物の建築以前に何らかの建物が建築されたことが認められないこと、昭和二二年一一月八日撮影の航空写真、昭和二六年作成の都市計画図、昭和二九年作成の白図及び昭和三四年作成の白図において、いずれも本件通路に接する建物の存在を認めることができないことが認められる。

そうすると、基準時において、本件通路につき、この通路を通じて公道に接するものとする建物が立ち並んでいたという事実を認めることは困難である。

(2) もととも、後藤が交付を受けた昭和四七年九月二五日付けの本件建築確認通知書には、現建物の建築確認申請書及び添附図面に記載の建築物の計画が法令等に適合する旨の記載があり、これに添付された配置図には、本件通路が二項道路であると記載されているが、前記認定のとおり、当時の建築確認の審査は、もっぱら申請人が提出した資料に基づいて審査し、建築主事等が現地を実際に調査することはなかったこと、本件配置図は、申請人である建築士高野三男が本件建築確認申請書に添付する図面の一つとして作成したものであるにすぎず、しかも、二項道路であるとの右記載が具体的にどのような根拠あるいは経緯の下にされたのか詳らかではないし、加えて、高野建築主事が、本件通路が本件告示により二項道路として指定された道であることを確認した上で、本件建築確認通知書を交付した事実を認めることもできないから、本件配置図の右記載のみをもって、本件通路が、本件告示により指定された二項道路であると認めることは困難であるし、また、前示のとおり、基準時において、本件通路が、二項道路としての要件を満たしていたと認めることもできない。なお、原告は、終戦後、佐藤かねの子である佐藤真佐子が本件計画敷地内に居住していたこと、本件計画敷地内に、飲料に利用されていたと思われる古井戸の陶管が存在すること、右昭和四七年の建築確認通知は、申請から建築確認までの期間が二〇日以上かかっていること、右確認申請の際、基準時において立ち並びの要件を証明するための資料として、米穀台帳等の提出をしたこと、平成三年七月ころ、現建物の建替えを計画した際、建築業者が浦和市建築指導課と協議したところ、同課は、現建物の建替えに支障がないと言っていたと聞いた旨を供述するが、佐藤真佐子が居住していた具体的な時期や右米穀台帳等の記載の詳細な内容は不明であって、いつ、誰が、どの建物に居住していたのか等という具体的な状況は明らかではないので、これらの事実が存したとしても、これにより本件通路が立ち並びの状況にあったことは認め難く、浦和市建築指導課と右建築業者の協議の内容も定かでない。その他、原告が主張する各事実を考慮しても、基準時において本件通路に接する複数の建物が存在したことを認めることはできない。

(3) 以上のとおりであるから、本件通路には、基準時において建物の立ち並びの状況にあったという事実を認めることはできないので、本件通路が、本件告示によって二項道路として指定された道であると解することはできない。

(三)  また原告は、本件告示により、本件通路が立ち並びの要件を充足していたとの推定が働くと主張するが、埼玉県知事は、本件告示によって、都市計画法適用市、町、村の区域内にある幅員四メートル未満一・八メートル以上の道について、これが建物が立ち並んでいる幅員四メートル未満の道に当たるとして、包括的に二項道路として指定したと解することができないことは、前記説示のとおりである。したがって、本件告示によって、立ち並びの要件が推定されることを前提とする原告の右主張も、理由がない。

二  争点2について

法は、建築物の敷地、構造、設備及び用途に関する最低の基準を定めて、国民の生命、健康及び財産の保護を図り、もって公共の福祉の増進に資することを目的として定められたものであるところ(法第一条)、法第四二条第一項及び法第四三条は、建築物の敷地は原則として幅員四メートル以上の道路に二メートル接していなければならないとの基準を定めているから、幅員四メートル未満の道のみに接する敷地に存する建物は、法施行後、直ちに、建築することが不可能であり、また市街化した地域においては、道を四メートル以上の幅員に拡幅することも実際上不可能である。そこで、法は、法が施行される前、既に各地に幅員四メートル未満の道が多数存在していたことから、法施行に伴いこれらの幅員の狭い道について直ちに幅員を四メートルに拡幅しなければならないとすると、幅員が四メートル未満の道路に接して存在する既存建築物の権利者に酷な結果となり、逆にこれらの狭い道をそのまま認めると法の目的を達することができないため、これらの二つの要請を調和し、基準時における既存の建築物を違法建築とはしないが、以後当該建築物につき増築、改築等が行われる場合には、道路内の建築を制限した法第四四条の規定を適用することによって、四メートル未満の幅員を時の経過と共に将来的に全て四メートルまで拡幅しようとした。そこで、法第四二条第二項は、基準時に幅員が四メートル未満の道であっても、特定行政庁が指定した道については、法第四二条第一項の道路とみなして、基準時に存在した建物の存続を保護するとともに、将来的に建築物が四メートル以上の道に接することになるように定めた。これらの規定は、いずれも、都市の将来のあるべき姿を見極めながら合理的な土地利用を図り、あわせて建築物の利用者の交通の利便、火災、地震等の災害発生時の防火、避難活動、建築物の日照、採光、通風等良好な生活環境の確保、適正な私道網による都市の整備等を実現するためのものである。

このような法の目的や趣旨からすると、法の要件に適合しない違反建築物は、周辺建築物の利用者の交通の利便や、緊急事態における避難活動や緊急車両の通行等が妨げられるおそれを生じさせるので、厳に避けるべきであって、法は、画一的・公平に適用しなければその趣旨を達成できない性質の規定であるというほかない。したがって、建築基準法上、信義則を適用し、接道要件を満たさない違反建築物を是認する余地があり得るとしても、右のような建築基準法の趣旨・目的を考慮してもなお、被処分者について、社会通念に照らしその信頼を保護しなければ酷となるような特段の事情が存する場合に限られるというべきである。

これを本件についてみるに、前記認定事実のとおり、本件計画敷地は、そもそも接道要件を満たさないため、本件建築計画は法第四三条の規定に抵触すること、本件通路が二項道路であることは、現建物に関する本件建築確認通知書添附の本件配置図に記載されているにとどまり、むしろ、本件告示の当時、本件通路が二項道路に該当する道路であるとは認め難く、本件告示による指定された道と解することはできないし、高野建築主事が、本件配置図等の記載に基づいて本件建築確認通知書を交付したとしても、当時の建築確認に関する取扱に照らすとも被告が本件道路を二項道路であることを公的に確知して、その旨を示したと認めることは困難であるといわざるを得ない。また、本件建築確認通知書は、現建物に関する建築確認を申請した後藤に対してされたものであり、原告は、右記載を信頼し、将来、現建物の建替えが可能であると信じて現建物及び本件計画敷地を購入したというのであるから、本件配置図の記載は、被告が原告に対して行政庁としての公的見解を表示したものではなく、本件建築確認通知書の記載等を信用したとする原告の信頼を保護しなければならないとする前示特段の事情も見出し難い。その他、本件全証拠によるも、これらの事情を認めるに足りる証拠もない。

したがって、本件処分について、信義則違反の違法があるとする原告の前記主張は、理由がない。〔中略〕

第四 結論

以上のとおりであるから、原告の本件請求は、いずれも理由がないので、これを棄却し、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 星野雅紀 裁判官 小島浩 檜山麻子)

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